再養育村 計画 


 世の中には、被虐待児童を引き取り、ひとつの人工村(というのも変な言い方ですが)に集めて、ボランティアが育て直すというという活動を行っている団体があります。この団体は世界的に活動を行っているそうで、日本にも支部があります。

 この計画に興味を持った私は、「大人のためのこういう計画をできないか、あるいは、運営ノウハウだけでもいただけないか」先方に問い合わせたのですが、残念ながら、理解を得られることはなく、日本代表の著書を薦められるに終わりました。

 そこで、私は職人たちの慣習に倣い、「技術を盗む」ことにしました。以下は、私なりにかの団体の運営ノウハウを検証・再構築し、再養育療法に当てはめようという試みです。事業計画書とはとても呼べない、草案レベルの代物ですが、皆様の手で研磨にご協力いただければ幸いです。

 

 

 さて、件の団体の概要を見て、大変優れていると感じたのは以下の部分です。

 

1.運営スタッフと再養育者、被再養育者だけで構成されたコミュニティである。

2.再養育者と被再養育者を完全にマンツーマンにしている。


 まず1ですが、再養育になによりも必要なのは、安心して退行できる環境です。つまり、赤ちゃん返りしている様を嘲笑するような無理解の徒の目を気にせずに、思い切り甘えなおせる環境を長期間維持できなくてはなりません。

 この点において、件の団体ははベストアイデアを出しました。ひとつの地域を理解者だけで固め、防波堤と化せば、安息の場が脅かされる心配がなくなるからです。

 つぎに2です。件の団体では、再養育者が既婚者である場合、妻だけを被再養育者として、再養育に専念させます。再養育期間中は、夫や実子に接触させないのです。

 こう書くとなんとも横暴な感じがしますが、再養育療法の視点で見た場合、これは極めて重要なことです。

 被再養育者は大変に独占欲の強い状態にあります。極端に書くと、一瞬たりとも再養育者が自分からよそ見することを許しません。そしてれは、再養育が必要になった背景と治療論上から、仕方が無いと申しますか、当然のことなのです。

 ですから、愛情授受のライバルとなる夫や実子は、存在を被再養育者に意識させない必要があるのです。

 また、再養育療法の達成効果(スピード)は、再養育者と被再養育者の接触時間の密度に比例します。この点からも、こうしたマンツーマン関係に没入できる環境づくりというのは、大変に意義のあることです。

 なお、件の団体では、再養育者は女性のみを用いています。これは、再養育療法の理論と臨床例において、再養育者は女性のほうが治療効果が圧倒的に高いからでしょう。

 

 では続いて、上記を踏まえて再養育村(と仮称します)をどう実現するかを考えてみましょう。

 この計画のネックになるのは、やはりあまたの慈善事業の例に漏れず、土地と人材と資金の確保でしょう。とくにこの計画にとって、土地の確保は重要です。

 この問題をクリアするにあたって、まず思いつくのが寄付金の募集ですが、これについては悲観的にならざるを得ません。ユニセフを例に取るまでもなく、虐待された子供の救済に金を出す人は少なからずいますが、虐待された大人の救済に金を出すことの有益性を理解している方は残念ながら少ないからです。

 遺憾ながら善意が期待できないとなると、次なる手段はビジネス、つまり協力者に利益をもたらす必要があります。そこで私は、以下のようなプランを練りました。

 

過疎村との提携

 日本の各地に、村興しのアイデアに随時頭をひねっている過疎村があります。彼らは産業を欲していますので、この再養育村を産業としてギブ&テイクの精神で盛り上げていきましょうと持ちかけるわけです。

 産業とは地域外から外貨を稼ぐ手段です。この再養育村の外貨獲得手段は、以下のようになります。

 

1.再養育村に必要な日用品などの需要の発生

2.税金収入

3.新たなる再養育者化、あるいは再養育者化の拒否時における再養育代

 

 まずは1。再養育療法は、およそ5年という長期の治療が必要になります。これは言い換えると、外客が再養育村というホテルに5年宿泊してくれるようなものです。無論、滞在中は食料や日用品の消費が発生しますから、その部分も収入源として計上できます。

 ただ、この案1の問題は、再養育は無償の愛情によって為されなければならない、という点です。つまり原則として、被再養育者から直接金銭を徴収するのは、厳禁なのです。

 ではどうするかといいますと、生活保護や障害者年金といった福祉収入をこれの支払いに充てます。被再養育者自身が直接自腹で支払わなければ、被再養育者は地域や国家からの無償の愛情を感じ取ることが出来るからです。

 とはいえ、これだけでは行政の負担が大きく、案として不十分でありますから、策をさらに重ねる必要があります。そこで案2です。

 再養育には、再養育者のアドバイスやガス抜きを手伝う、医師や心理士といったスーパーバイザーが必須です。再養育に理解のある、こうした人間を招聘することで、彼らからの税収が望めます。

 

 そして、最大の資金源となるであろうものが案3です。「卒業」した被再養育者には二つの道のいずれかを選んでもらいます。ひとつは、新たな再養育者や運営スタッフとして、被再養育者を最低2人は再養育する道。二つ目は、上記が不可能、あるいは拒否した場合、治療代として日本円で3000万円を支払ってもらう道(この数字は、カナダの事例を参考に計算しました)。このいずれかを、卒業時に選択してもらうわけです。

 前者は、文字通りボランティア料金で村の産業に尽くす人材が確保できることになります。後者はそのまま直接的な収入となります。

 国内で受けられない治療を求めて、海外へ飛ぶという話をときどき耳にしますが、これの逆のパターンとして、海外からの被治療者を受け入れ、外貨を獲得するという算段もあります。

 

 以上、大変荒削りではありますが、このような手法で再養育村を産業として運営できると考えます。提携のお申し込み、また、より良い提案を心よりお待ちしております。

 

おわりに

 この「再養育村 計画」の執筆終了をもって、「私が死ぬ前に遺しておかなければいけないもの」は、すべて出し切ったことになります。もし私が志半ばに倒れることがあっても、こうしてインターネットの恩恵を受けて世界中に向けて「種」を植えることができたのは、大変大きな意義があると感じております。 

 無論、ここまでの展開は「最低限やっておかなければいけないこと」に過ぎず、まだまだやるべきこと、やりたいことが山積みで、やっとスタートラインに達したというところです。この命燃え尽きる日まで、無理せず、しかしながら確実に歩を進めていきたいと考える所存です。

 

 

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